研究計画・方法(概要)

 本研究課題は、新出のチベット論理学草創期の古写本の読解のための用例と議論内容の対照表を作成し、チベット論理学特有の概念の形成過程研究の基礎を築くことを目的とする。具体的には次のことを行う。

  1. チベット論理学草創期の古写本のテキスト入力をする。
  2. 重要な概念の用例を収集してデータベース化し、コンコーダンスを作成する。
  3. 個々の議論のテーマを抽出し、その対応表を作成する。
  4. 具体的なテキストの読解の一例としてツァンナクパの『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』注を解読し訳注を作成する。

 本研究課題の目的は、新出資料に基づく初期チベット論理学の諸概念の形成過程を解明するための基礎資料を作成することにある。具体的にはテキストの入力、コンコーダンスの作成、議論の対応表の作成、ツァンナクパの『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』注の読解である。本研究課題が対象としている古い論理学文献は、従来知られていた後代のチベット論理学書とは表現方法や議論内容が大きく異なっている。単語自体は大きく異なってはいないが、当時のチベット人が共有していた議論の背景や概念の意味内容の知識が我々に不足していることが、テキスト読解の大きな障害となっている。本研究課題では、そのような難解なテキストの読解に資する基礎資料を作成する。

 研究分担者の石田尚敬はインド後期の仏教論理学を専門としながら、研究代表者と共にチベット論理学の読解に当たってきた。インド後期の仏教論理学は同時代である初期のカダム派の論理学に直接伝わった可能性が高い。ツァンナクパの『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』注についても、10年以上前に一緒に講読をした研究者であるため、本研究課題の研究分担者として研究組織に加えた。また東京大学大学院博士課程の崔境眞は博士論文で、ゴクとチャパおよびゲルク派初期のタルマリンチェンの『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』注の第二章「自己のための推理」における刹那滅論を扱う。またツァンナクパの『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』注の電子テキストの整理と校訂にも携わった。初期チベット論理学を専門とする研究者を目指しているので、本研究課題の研究協力者に加えた。

 本研究課題については、平成25年度までに次のような準備を終える。

  1. 『カダム派全集』中の論理学書についてのリストは平成25年度中に完成する予定である。若干の入力も進める。
  2. ツァンナクパの『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』注は電子テキスト入力がすみ、おおよその校訂も済んでいる。原文にはない詳細な目次(科段)も作成済みである。解読作業は平成25年度後期から進める。

初年度の研究計画は以下の通りである。

  1. 既に電子テキストの入力が済み、全体の詳細目次(科段)が作成されているツァンナクパの『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』注から、重要な概念の用例集を作成する。これが今後の研究の出発点となる。次年度以降はデータベース化するが、初年度はローカルにデータを蓄積することとする。(福田)
  2. 次年度以降、用例のデータベースを構築するためのデータベース開発を行う。福田は、かつて後代の論理学の概念のコンコーダンスを作成するためにローカルなデータベースを作成したが、今回はサーバー上で稼働し、外部からアクセス出来るデータベースを作成することで、入力したものをそのまま公開できるようにしたい。(福田)
  3. 上記ツァンナクパの注から、いくつかの議論を取りだし、福田、石田、崔による講読研究会を開き、解読作業を行う。できた部分から訳注を発表していく。(福田、石田、崔)
  4. 『カダム派全集』の中から、チョンデンリクレルの論理学書のコンピュータ入力を進める。チョンデンリクレルは、ゲルク派以前のカダム派の伝統の中では、後期に属するものであり、その点でも理解がしやすい。(福田)
  5. ゴクおよびチャパの論理学書に関しては、他の研究者と連絡をとり、データ交換の交渉を行う。(福田)
  6. ダルマキールティ学会、国際仏教学会に参加し、現時点での研究成果を発表する。その他、国内の学会でも、本研究課題に基づく研究成果を発表する。(福田、石田、崔)

 研究が計画通りに進まない可能性として考えられるのは次の諸点であるが、いずれも代替策を講じることができる。

 既に入力と校訂の済んでいるツァンナクパのテキストから研究作業を始めるので、スムーズに研究を始めることができると思われるが、一方で読解作業は必ずしも容易でないことが予想される。その場合にも、本研究課題が採用する方法は、個々のテキストの読解そのものではなく、概念と用法のコンコーダンスを作成するという基礎作業なので、一定の成果を挙げることができると思われる。

 また入力に関しては、チベット人学生のアルバイトを依頼する。論理学のテキストは単語の種類は少ないので、判読の難しいところも前後関係からある程度推測できると予想される。

 福田は京都、石田、崔は東京に住んでいるので、研究会は東京と京都とで半々程度を予定している。もし日程が合わないか、回数が不足するようであれば、Skypeなどの会議システムを使用して、不足分を補いたい。

 国内学会・国際学会に関しては、随時、研究課題の成果を発表をしていきたい。

 本研究課題は、3カ年の研究計画で申請している。平成27年度および平成28年度は、初年度に引き続き入力作業を続け、入力したテキストから順次、用例を収集し、データベース化して公開する。まずゴクの著作から入力を始め、チャパの未入力のものを最後に扱う。

 議論内容について、データを整理し、同種の議論の対応表を作成する。対応する議論を探すのは、用例のデータベースよりは難しい。ある程度の解読が必要だからである。しかし、分からないところがあったとしても、問題は「何についての議論か」を調べていくことなので、決定的な困難に出会うことはないと思われる。

 ツァンナクパの『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』注の解読は引き続き研究会を開催し、訳注を発表する。

 研究過程で各自の研究成果の学会発表および学会誌への投稿を行う。

 これらの成果は、研究課題の終了後一つにまとめて出版を計画している。